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金沢地方裁判所 昭和54年(わ)351号 決定 1979年4月10日

少年 K・Y(昭三五・一・一生)

主文

本件を金沢家庭裁判所に移送する。

理由

一  本件公訴事実は、「被告人は、第一、公安委員会の運転免許を受けず、かつ、身体にアルコールを保有し、その影響により正常な運転ができないおそれのある酒に酔つた状態で、昭和五三年六月二六日午後一一時三〇分ころ、金沢市○町×丁目×番×号付近道路において、普通乗用自動車を運転した、第二、自動車運転の業務に従事する者であるが、前記日時場所において、普通乗用自動車を運転し、○○○方面から○町○○○方面に向かい時速六〇キロメートルで進行していたものであるが、折から被告人は酒に酔い注意力が散慢となり、前方注視能力や運転操作能力が低下していたのであるから、自動車運転を差し控えるべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、敢えて運転を継続し前方注視能力不十分の状態で進行していた過失により、折から前方を同一方向に進行していたA(当三九年)運転の普通乗用自動車を約四・六メートルに接近して初めて認めたが急制動する間もなく、同車後部に自車前部を追突させ、よつて、同人に加療約四〇日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせた。第三、前記日時場所において、前記自動車を運転中前記のとおりの交通事故を起したのに、直ちに運転を中止して負傷者を救護する措置を講ぜず、かつ、事故発生の日時場所など法令の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつたものである。」というのである。

二  よつて、検討するに、被告人は、本件の捜査及び公判審理の各段階を通じ、右の事実を全部認めて争わず、被告人の当公判廷における供述をはじめ、本件の関係各証拠を総合すれば、右公訴事実はすべてこれを肯認するに足り、被告人の右第一の所為中、無免許運転の点は道路交通法一一八条一項一号、六四条に、同酒酔い運転の点は同法一一七条の二第一号、六五条一項に、右第二の所為は刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、右第三の所為中、救護措置義務違反の点は道路交通法一一七条、七二条一項前段に、同報告義務違反の点は同法一一九条一項一〇号、七二条一項後段に各該当する。

三  そして、前記証拠によれば、本件は、被告人が当夜自宅や行きつけの喫茶店で飲酒した後、酔余自動車の運転に興味を抱き、同喫茶店に居合わせた知人の自動車を勝手に乗り回すなどして、前認定のとおり、自動車の無免許、酒酔い運転を敢行し、しかも、その運転中に指定制限速度を遙かに超える時速六〇キロメートルの高速度で走行し、折から先行中の被害者両に自車を追突させて、当該被害者に加療約四〇日間を要する傷害を負わせたのに拘らず、当該被害者に対する救護措置を講せず、また、警察官に対する事故報告義務をも果たさないで、当該事故現場から逸早く逃走したものであることが明らかであつて、その犯情が極めて悪質であるうえ、右の人身事故は被告人の一方的かつ重大な過失に起因しており、事故の結果も決して軽くないことなどを総合考察すれば、被告人の刑責は重く、被告人を不定期の懲役刑に処するのが相当であるとする検察官の意見も一応もつともなところというほかはなく、被告人の年齢、境遇、家庭状況、特に被告人の父親が本件について被害者との間に示談を遂げ、その示談金額の支払いを完了するなどして誠意を披瀝した関係上、被害者の感情も宥和していることなど、本件の関係証拠上肯認し得る被告人に有利な一切の事情を十分斟酌しても、被告人に対し、刑の執行を猶予するのを相当とするような特段の情状は未だこれを認め得ない。

四  そこで、被告人に対しては、本件についてすでに少年保護制度の限界外に在るものとして懲役刑の実刑を科するのが果たして適切なのか否か、を更に検討するに、被告人は、年齢一九歳三か月余のいわゆる年長少年であつて、金沢市内の中学校を卒業後公立高等学校に進学したものの、間もなく生活に乱れを来たして学業を続けることができず、学友らと喫煙をして補導され、又は自転車盗の非行を犯して家庭裁判所で保護的措置を受けるなどしたため、一年生の三学期に中途退学し、そのころから同市内の自動車整備工場に同整備工見習として引続き通勤稼働しているものであること、また、被告人は、中学生時に父母が深刻な不和葛藤の末別居するようになつて以来、母親と別れて自衛官の父親と肩書住居で二人暮らしをしているが、父親の勤務等の関係から、日頃殆んど放任されるままに勝手気侭な生活を続け、さきに前記非行や問題行動があつたのに、その監護面の不備などについては殆んど改善されることなく放置されており、飲酒や喫煙についても半ば習慣化していることが窺われるなど、その生活態度及び家庭環境等にはかなり問題視すべき点が少なくないことなどが認められ、右事情に徴すれば、本件各犯行はいずれも被告人の前記生活態度等に由来するものというに難くないところである。しかし、被告人の非行性ないし犯罪的傾向は比較的浅く、被告人が当公判廷において改悛の情を示していること、また、被告人の父親においても今後被告人を十分監督してその生活態度等を改善させる旨誓つていること。さらには、近時少年保護施設が充実整備されている実状等をも併せ考慮すれば、被告人は、今後相当期間当該本人の年齢、資質、経歴をはじめ、本件の罪質、犯情等に相応する少年保護施設(少年院)に収容して、規律生活の訓練と徳育等を通じ、遵法精神の涵養に努めさせるなどして教育的処遇を施すことにより、十分改善更生を期待し得るものと認められるので、被告人に対しては、いまここで前記実刑を科するよりも、保護処分に付して前記施設収容の方途を講じる方が刑政上より妥当な措置であると思料する。

五  よつて、被告人を保護処分に付するのを相当と認め、少年法五五条を適用して、本件を金沢家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 川瀬勝一)

〔参考〕 受移送審決定

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一 罪となるべき事実

本件記録中の起訴状記載公訴事実第一ないし第三の各事実のとおりであるからここに引用する。

二 上記事実に適用すべき法令

(一)

(1) 上記第一の事実中無免許運転の点につき、道路交通法一一八条一項一号、六四条

(2) 同□□□□□□□酒酔い運転の点につき、同法一一七条の二第一号、六五条一項

(二) 上記第二の事業につき、刑法二一一条前段

(三)

(1) 上記第三の事実中救護措置義務違反の点につき、道路交通法一一七条、七二条一項前段

(2) 同□□□□□□□報告義務違反の点につき、同法一一九条一項一〇号、七二条一項後段

三 処遇理由

本件は、少年が、自宅や行きつけの喫茶店でビールを飲んだ後、何らの運転免許も有していないのに、たまたま同喫茶店に来合わせた知人の自動車のキーを持出して同自動車を運転し、無免許、酒酔い運転の非行を犯したうえ、その運転中指定制限速度を大きく超える時速約六〇キロメートルの高速度で走行し、酔余注意力が散漫となり、前方注視すらままならず折から先行中の被害車両に自車を追突させて同車両の運転手に加療約四〇日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせたのに拘らず、無免許、飲酒運転の発覚を恐れて被害者に対する救護措置を講せず、警察官に対する事故報告義務も尽さないで逃走した事案であり、未成年であるのに飲酒し、酩酊度も飲酒検知管によれば中等度にまで達しており、前記追突事故を起こしながら結局道路わきの電柱に衝突して停車を余儀なくさせられるまで逃走を図つていることを思うと、本件における少年の行為はその危険性を全く顧みないまことに悪質なものであり引き起こした結果も決して軽くなく、少年の責任は重いといわなければならない。しかも、少年には本件事故後被害者に対する損害賠償等において誠意がみられず、被害者の方ではその処置に困惑していた様子がうかがわれ、保護者においても同様であるなど、少年、保護者とも本件の重大性と責任を心底から自覚していたようには見受けられなかつた。そこで、本件は、事案の内容や以上の状況等を合わせ考えると、少年に対して保護処分では対処し切れず刑事処分が相当であるとして、一たんは検察官送致とされたが少年法五五条により金沢地方裁判所から当裁判所に移送されたものである。

本件は、検察官に送致された後、公判請求がなされたが、少年及び保護者は、公判請求されたことを契機として本件の重大性に対する自覚を深め、被害者に対しても十分の誠意を尽し、少年自身も本件を深く反省するに至つたことが認められ、後記の家庭環境等も合わせ考えると、当裁判所に移送された現在においては保護処分により少年の健全成育を図ることが可能でありかつ相当であると考えられる。

少年の家庭を見るに、昭和五〇年五月ころ父母が別居し、少年は父と二人で生活するようになつてからは父との対話もほとんどなく、家庭不和によるうつ積した不安全な心情が募るばかりであり、こうしたことが飲酒、喫煙につながつたり、社会的に逸脱した行動に走る大きな要因となつているということができる。父は、少年の幼少時から、時に一方的に厳しくしつけようとする姿勢に出るのみで、少年の心情等を理解したうえでの適切な指導監護はなされていず、以前少年に窃盗等の問題行動があつた際にも結局これといつた指導がなされないままに終わつているが、このような家庭の監護上の問題点はなお改善されていず、現在では、少年は、父を避けようとするばかりである。又、性格的には規範意識が薄く、自己中心的で前後の状況を見ることなく短絡的行動に走り易いうえ、集中力、持久力に乏しいところが見受けられる。

以上の状況に照らすと、少年の再非行防止のためには、家庭的な葛藤が早急に改善される見込みのない現状では、家庭内の問題は問題として受け止めつつも逃避的になるのではなく、自らの手で社会に適応した生活をなし得るよう自立性を涵養し、生活意欲を持たせるとともに上記性格の矯正を図ることが枢要と思われるところ、前記のとおり父との間の意志疎通が乏しく家庭での指導監護には多くを望み得ないことから在宅保護にあつては必ずしも十分の効果を期待できないこと、せつな的で抑制力の乏しい生活態度を改めるべく厳しい指導が必要であること及び本件非行内容等諸般の事情に徴すると、少年は本件を深く反省し、職業的にも真面目に仕事に従事していることなどを考慮しても、少年はしかるべき施設に収容して本件の重大性を再認識させ、規律ある生活のもとに矯正教育を受けさせることが相当である。

よつて、少年を中等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して主文のとおり決定する。

なお、本件非行内容及び昭和五〇年七月の窃盗事件以後一般非行は一応おさまつていること等本件にあらわれた各事情に鑑み交通短期処遇を勧告することとする。

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